注文書が来ていない工事を、どこで数えていますか
見積・発注・請書——書類がどこまで出たかが、案件の本当の段です
「注文書、まだ来てないんですよ」
工事の話をしていると、わりとよく出てくる台詞です。段取りは組んである、職人の予定も押さえた、現場はもう動いている。ただ、紙だけが来ていない。
いま進めている工事のうち、注文書か請書が手元にある件数が、すぐ言えますか。 言えないとしたら、それは管理が甘いからではなくて、どの書類がどこまで出たかを書いておく場所が、どこにもないからだと思います。
案件の段は、自分の都合では決まらない
案件管理の表を作ると、たいてい「段」の列を作ります。見込み、商談中、見積提出、受注——こういう並びです。
ここで困るのは、その段が本当に進んだかどうかの証拠を、自分が持っていないことです。
下請け・パートナー経由の仕事を思い出してください。書類はこんな順番で動きます。
- 自社 → 元請(パートナー) の見積
- 元請 → 発注元(施主・クライアント) の見積
- 発注元 → 元請 の発注
- 元請 → 自社 の発注・注文書
自分が出すのは1番だけです。2番から4番は、別の会社が出す書類です。それなのに、案件が本当に動いたかどうかは2番から4番で決まります。
だから「自社の見積フォルダ」をどれだけきれいに整えても、案件の段は読めません。自分の書類だけ管理している限り、段はいつまでも自己申告のままです。
「保管できている」と「段が読める」は別のこと
書類そのものは、どの会社も一応どこかにあります。メールの添付、共有フォルダ、現場ごとのクリアファイル、紙の綴り。
この形で解けるのは「どこにあるか」だけです。 解けないのは「どの段まで出たか」です。
ファイル名を工夫して 20260901_○○邸_見積.pdf のように揃えている会社もあります。これはかなり良い手で、1枚を探すのは速くなります。ただ、「見積は出したのに発注書が来ていない工事」を、ファイル名の一覧から抜き出すのは無理があります。 一覧に並ぶのは在るファイルだけで、無いファイルは何も表示しないからです。
ここがこの話の芯だと思っています。書類の管理で本当に効くのは、在る書類ではなく、無い書類を数えられることです。
紙でもExcelでもできる形
道具は要りません。1枚1行の台帳を作るだけです。列は5つで足ります。
| 列 | 中身 |
|---|---|
| 案件 | どの工事の書類か |
| 種類 | 見積書/発注書/注文請書/契約書/請求書 |
| 出し手 → 受け手 | 自社 → 元請、元請 → 自社、発注元 → 元請 |
| 日付 | その書類の日付 |
| 場所 | ファイルのリンク、または綴りの場所 |
ポイントは3列目です。「誰が誰に出したか」を書く欄がないと、ただのファイル置き場に戻ります。 同じ「見積書」でも、自社が出したものと元請が発注元に出したものは、案件にとって全く違う意味を持ちます。種類だけ書いて向きを書かないと、あとで見た人には区別できません。
そして「進捗」や「状況」という列は作らないでください。 以前協力会社の一覧、何列ありますかに書いたとおりで、見ればわかる事実の列は埋まりますが、人の判断が要る列は埋まりません。 段は、並んだ書類の種類から読めます。書類が「見積書」までしかない案件は、まだ発注が来ていない案件です。判断を別の列に書き写すと、書き写し忘れた瞬間から嘘になります。
Excelでやるなら、この台帳を1枚のシートに溜めて、案件の一覧とは別に置くのがいいと思います。案件1行に書類の列をぶら下げないでください(「見積日」「発注日」「請書日」と横に伸ばす形)。書類は1案件に何枚も、同じ種類が何枚も付きます。追加があるたびに列が増える表は、半年でだれも触らなくなります。
紙でやるなら、案件ごとの袋の表に同じ5欄の紙を貼るだけです。考え方は道具に依存しません。
数えるのは「無い行」
台帳ができたら、月に1回これを数えてください。
「見積書の行があるのに、発注書か注文請書の行が無い案件は何件か」
これが、いま追いかけるべき案件の一覧です。ついでに、もう1つ数える価値があります。
「もう現場が動いているのに、発注書か注文請書の行が無い案件は何件か」
こちらは追いかけというより、後で揉める候補です。私の経験では、金額や工期の食い違いが問題になるのは、ほぼこの箱に入っていた工事でした。口で決めて動き始めたものは、決めた中身が人の記憶の中にしかありません。
書類が要る理由は、揉めないためだけではありません。建設業法第19条は、建設工事の請負契約の当事者が、契約を結ぶときに工事の内容・請負代金・工期などの法定の事項を書面に書き、署名または記名押印して互いに交付することを求めています。元請と下請の間の契約も対象です。注文書と請書のやり取りでこの書面に代えるときの条件(基本契約書を結んでおくか、注文書と請書のそれぞれに同じ基本契約約款を付ける、など)は、国土交通省の通知「注文書及び請書による契約の締結について」にまとまっています。この記事は法令の解説ではないので、要件の中身はその通知を読んでください。ここで言いたいのは一つだけで、注文書や請書が「来ていない」状態は、手間の問題である前に、本来あるべき書面が無い状態だということです。
数えるだけで動きます。件数が出てしまえば、「あの件、注文書お願いできますか」の一声は出しやすくなります。言いにくいのは、何件あるか分からないままにしているときです。
私たちの道具の話(ここから宣伝です)
リレーションログは、いま書いた考え方をそのまま形にした営業管理のソフトです。
案件のページに「書類」の節があります。見積書・発注書・注文請書・契約書・請求書(+その他)の原本(PDF・画像)をそこに置けます。置くときに種類と、出し手 → 受け手を選びます。選べる相手はその案件の両側=自社/パートナー(案件の会社)/クライアント(発注元)です。会社名を打ち込むのではなく、その案件に登録されている会社から選ぶ形です。
表示名・書類の日付・メモを添えられて、開くと原本がそのまま見られます(期限つきの一時リンクなので、外に公開されることはありません)。案件を消せば書類も一緒に消えます。ベースプランから使えます(1ファイル 20MB・PDF/JPEG/PNG/HEIC・1案件 30件まで)。
工程は「相談あり/要件確認中/見積準備中/見積提出済み/検討中/受注」と並んでいますが、この工程は人が動かすものです。 書類の節に発注書が置かれたからといって、工程が勝手に進んだりはしません。置いたものが事実、動かすのが判断、という線をそこに引いています。
できないこと(正直に)
AIは書類を読みません。 置いても、金額や日付が案件の欄に入ることはありません。読み取りは別の機能としていずれ作るつもりですが、いまは無いので「置けば入る」とは言いません。
それから、これは書類管理システムではありません。 フォルダ、タグ、全文検索、版管理、承認の回付、電子契約——どれもありません。案件に紐づいた原本の置き場です。会社や人物には置けません(案件だけです)。あと、案件に相手の会社が付いていないと書類を置けません(出し手・受け手を案件の両側から選ぶ形にしているので、片側が空だと選べません)。
このあたりが要るなら、専用の文書管理のサービスのほうが合っています。
明日できること
台帳がある会社も無い会社も、同じ数え方が1回できます。
「いま動いている工事のうち、注文書か請書が手元にある件数は何件か」
分母は工事の件数、分子は紙がある件数です。この2つの数字が出たら、それが今日の到達点です。3か月後に同じ数え方をもう1回して、分子が分母に近づいていれば、書類の管理は仕組みになりつつあります。
受注率では測らないでください。相手の事情で動くので、こちらが何を直したのかが読めません。
ただ、この記事の中身は紙でもExcelでも実行できます。 1枚1行で書く、向きを書く、判断の列は作らない、無い行を数える。これだけで、揉める工事は減ります。道具が要るのは、記録を残す手間そのものを減らしたくなってからで十分です。
関連:「検討します」と言われた見積を、いつ追いかけますか(見積を出したあとの時間)/協力会社の一覧、何列ありますか(列の設計)/見積を出した後、誰が追っていますか?/専門工事業の方へ/機能と料金
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