電気工事の新規開拓、飛び込み以外に何が残っているか
打てる手は7つ。そのうち3つは、いまの元請の中にあります
「新規開拓をやらないといけない」
電気工事や設備工事の会社で、社長がそう言い出したあと、実際に何かが始まることは案外少ないと思います。翌週には現場が回り出して、話はそのまま消える。
やる気の問題ではないと思っています。打ち手が並んでいないから、何から始めるかが決まらないのです。「新規開拓」は方針の名前であって、行動の名前ではありません。
そこで、下請けの立場で本当に打てる手を全部並べてみます。7つありました。そのうち3つは、いま取引のある元請の中にあります。
まず、2種類に分ける
- 内側 … いま取引のある元請の中で、声のかかる回数を増やす
- 外側 … 取引のない会社と、新しく付き合いを始める
外側から始める会社が多いのですが、確率で言えば内側のほうが高い。理由は単純で、内側にはすでに施工実績と信用があるからです。外側では、まず「誰なのか」から説明しなければなりません。内側が細っているのに外側を足すと、たいてい両方が中途半端になります。
内側の3つ
① いまの担当者に、次の物件を聞く
いちばん地味で、いちばん飛ばされている手です。目の前の現場の話は続くのに、その先の予定を聞く会話が入っていない。「来期はどのあたりを持たれるんですか」「いま人が足りていない工種はありますか」——この2つを聞いているかどうかで、翌年の物件の入り方が変わります。
② 同じ元請の、別の人に会う
元請1社の中で、外注先を決める人は1人ではありません。工事部と設備部で別だったり、営業所ごとに独立していたり、現場代理人が自分の裁量で決めていたりする。あなたの会社を知っているのは、そのうちの1人だけかもしれません。
ここで一度、紙でもExcelでもいいので数えてみてください。
| 元請の会社名 | 知っている人 | 最後に話した日 |
|---|---|---|
| A建設 | 工事部 佐藤さん | 先月 |
| B工業 | 設備部 田中さん/○○営業所 鈴木さん | 田中さん=先月/鈴木さん=昨年 |
| C建設 | 高橋さん(役職不明) | 2年前 |
作るのに30分もかかりません。名刺入れと、携帯の発信履歴と、記憶で足ります。
これを作ると、1社に1人しかいない元請が何社あるかが見えます。その1人が異動したら、あるいは辞めたら、その元請との取引はその日に止まります。逆に言えば、そこが伸びしろでもあります。新しい元請を1社開拓するより、いまの元請の中でもう1人に会うほうが、たいていは近い。
③ 現場で会う、他の業者
同じ現場に入っている他の専門工事業者は、競合ではなく紹介元です。応援の貸し借りをした相手、段取りで助けてもらった相手。その人たちが別の現場で「電気、どこか知らない?」と聞かれる場面が、年に何度かあります。
このとき思い出してもらえるかどうかは、腕の良し悪しよりも最後にいつ話したかで決まります。半年会っていない相手は、思い出されません。
外側の4つ——「宛先の欄」がある分だけ打てる
ここから外側です。新しい会社に声をかける手段は4つあります。そして、それぞれ必要な宛先が違います。
| 打ち手 | 無いと打てないもの |
|---|---|
| 紹介してもらう | 紹介してくれる人 |
| 手紙・DM | 住所 |
| 電話 | 電話番号 |
| 問い合わせフォーム | フォームのURL(ホームページのURLではありません) |
以前、自分たちの営業リスト2,032社(こちらはIT向けの名簿です)を「いま何が打てるか」で数え直したことがあります。手紙は2,031件出せるのに、電話は0件、フォームも0件でした。件数が2,000あっても、打てる手は1つだったのです(その話はこちら)。
新規開拓が進まない原因が、やる気でも文面でもなく、宛先の欄が空だったからということが、実際に起きます。
建設業は「名簿のある業界」です。ただし県によります
建設業には建設業許可の制度があり、許可を受けた会社の名簿が都道府県ごとに公開されています。ITのような業界には存在しない、業種で引ける公的な入口です。ところが、その公開のされ方が県によってまるで違います。2026年8月に関東の1都6県を一つずつ調べた結果です。
| 都県 | 一括で取れるか |
|---|---|
| 神奈川 | Excelで公開・毎月更新・電話番号あり |
| 栃木 | Excelで公開 |
| 東京 | 公開されているが、商用利用は許可しないと明記 |
| 茨城 | PDFのみ・数年前のもの |
| 埼玉・群馬 | 一括公開なし(窓口での閲覧) |
| 千葉 | 一括公開なし(国の検索システムの案内のみ) |
東京都の名簿のページには、この一覧やそれを加工したものを商用利用・出版・二次配布することは許可しない、という趣旨がはっきり書かれています。営業DMの宛先に使うのは商用利用にあたりますから、私たちは東京都の名簿を使いません。いちばん会社数の多い都なので惜しいのですが、ここは曲げないと決めました。利用条件を破って作ったリストは、後で全部使えなくなります。
国が運営している建設業者の検索システムも見に行きましたが、1ページ50件ずつの表示で一括の書き出しができず、名簿を作る用途には向きませんでした。
結論として、手紙を出せる範囲は、自分の営業エリアがどの県かで決まります。神奈川と栃木だけで、私たちの手元には1,459社の一覧ができました。自分の県がどちらなのかは、県の建設業担当課のページを開けば10分で分かります。
フォーム営業を、私たちは建設業では選びませんでした
正直に書いておきます。問い合わせフォームからの営業は、建設業向けには使わないことにしました。理由は2つで、そもそもフォームを置いていない会社が多いこと、置いてあっても宛先が事務の方で、外注先を決める人まで届きにくいことです。
ただしこれは、やってみた結果ではなく、私たちの見立てです。試していないことを「効かない」と書くのは違うので、そう書いておきます。
手紙を選ぶなら、1社ずつ書かないこと
外側で最初に打つ手として、私たちは手紙を選びました。ここで一度、設計を間違えかけました。
最初の案は「1社ずつ調べて、その会社に合わせた一行を入れる」でした。丁寧ではあります。しかし試算したら、200通で20〜30時間かかる。しかも増やせません。1,000通なら5倍です。
やめました。いま採っているのは、文面はセグメントに1本、差し込むのは会社名と代表者名の2項目だけという形です。こうすると、20通でも1,000通でも作業時間がほとんど変わりません。印刷や封入は外に出せますが、「1社ずつ書く」は外に出せない——時間を食っていたのはそちらのほうでした。
出せない完璧な手紙より、出せる普通の手紙のほうが強いという判断です。
どの手を打っても、次に効いてくるのは記録です
7つのうちどれを選んでも、1回で決まることはまずありません。決まるのは2回目・3回目です。紙で構いません。1社1行で、この3つだけあれば足ります。
- 会社名と、そこで知っている人の名前
- 最後に話した日
- 次に何をするか(1行でいい)
3つ目が空いている行は、放っておくと必ず止まります。
まとめ
- 新規開拓は「内側」と「外側」に分ける。先に内側を数える
- 内側は3つ。次の物件を聞く/同じ元請の別の人に会う/現場の他業者
- 外側は4つ。紹介/手紙/電話/フォーム。それぞれ必要な宛先が違う
- 建設業には公的な名簿がある。ただし使えるかどうかは県によって違う(東京都は商用利用不可)
- どれを打っても、決まるのは2回目以降。最後に話した日を記録する
「1社に1人しかいない元請が5社ある」と分かっているだけで、来月やることは決まります。新規開拓が止まるのは、やる気ではなく、並べていないからです。
ここまでの内容は、紙とExcelだけで実行できます。道具は要りません。
私たちが作っているリレーションログは、この「最後に話した日」を機械が数えておく道具です。90日会っていない会社が自動で一覧に出ますし、元請の中の特定の人を「この人がキーマン」と決めておけば、会社との取引は動いているのにその人とは90日話せていないという状態でも知らせます(継続案件のある元請ほど、これが見えなくなります)。名簿をためておく置き場もあり、行ごとに手紙・電話・フォームのどれが打てるかが印で並びます。
関連:電気工事会社の営業リスト、無料でどこまで作れるか(県ごとの名簿の話)/元請の担当者が代わったとき/2,032社の名簿で、打てる手は1つだけでした/機能と料金
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