実務ガイド

電気工事の新規開拓、飛び込み以外に何が残っているか

打てる手は7つ。そのうち3つは、いまの元請の中にあります

2026-09-14読了目安 6分

「新規開拓をやらないといけない」

電気工事や設備工事の会社で、社長がそう言い出したあと、実際に何かが始まることは案外少ないと思います。翌週には現場が回り出して、話はそのまま消える。

やる気の問題ではないと思っています。打ち手が並んでいないから、何から始めるかが決まらないのです。「新規開拓」は方針の名前であって、行動の名前ではありません。

そこで、下請けの立場で本当に打てる手を全部並べてみます。7つありました。そのうち3つは、いま取引のある元請の中にあります。

まず、2種類に分ける

  • 内側 … いま取引のある元請の中で、声のかかる回数を増やす
  • 外側 … 取引のない会社と、新しく付き合いを始める

外側から始める会社が多いのですが、確率で言えば内側のほうが高い。理由は単純で、内側にはすでに施工実績と信用があるからです。外側では、まず「誰なのか」から説明しなければなりません。内側が細っているのに外側を足すと、たいてい両方が中途半端になります。

内側の3つ

① いまの担当者に、次の物件を聞く

いちばん地味で、いちばん飛ばされている手です。目の前の現場の話は続くのに、その先の予定を聞く会話が入っていない。「来期はどのあたりを持たれるんですか」「いま人が足りていない工種はありますか」——この2つを聞いているかどうかで、翌年の物件の入り方が変わります。

② 同じ元請の、別の人に会う

元請1社の中で、外注先を決める人は1人ではありません。工事部と設備部で別だったり、営業所ごとに独立していたり、現場代理人が自分の裁量で決めていたりする。あなたの会社を知っているのは、そのうちの1人だけかもしれません。

ここで一度、紙でもExcelでもいいので数えてみてください。

元請の会社名 知っている人 最後に話した日
A建設 工事部 佐藤さん 先月
B工業 設備部 田中さん/○○営業所 鈴木さん 田中さん=先月/鈴木さん=昨年
C建設 高橋さん(役職不明) 2年前

作るのに30分もかかりません。名刺入れと、携帯の発信履歴と、記憶で足ります。

これを作ると、1社に1人しかいない元請が何社あるかが見えます。その1人が異動したら、あるいは辞めたら、その元請との取引はその日に止まります。逆に言えば、そこが伸びしろでもあります。新しい元請を1社開拓するより、いまの元請の中でもう1人に会うほうが、たいていは近い。

③ 現場で会う、他の業者

同じ現場に入っている他の専門工事業者は、競合ではなく紹介元です。応援の貸し借りをした相手、段取りで助けてもらった相手。その人たちが別の現場で「電気、どこか知らない?」と聞かれる場面が、年に何度かあります。

このとき思い出してもらえるかどうかは、腕の良し悪しよりも最後にいつ話したかで決まります。半年会っていない相手は、思い出されません。

外側の4つ——「宛先の欄」がある分だけ打てる

ここから外側です。新しい会社に声をかける手段は4つあります。そして、それぞれ必要な宛先が違います

打ち手 無いと打てないもの
紹介してもらう 紹介してくれる人
手紙・DM 住所
電話 電話番号
問い合わせフォーム フォームのURL(ホームページのURLではありません)
下請けが打てる手は7つ。まず内側から数える 内側 いまの元請の中 実績と信用がある=今日から打てる ① いまの担当者に、次の物件を聞く ② 同じ元請の、別の人に会う ③ 現場で会う、他の業者 外側 新しい元請 「宛先の欄」がある分だけ打てる ④ 紹介してもらう 要:紹介してくれる人 ⑤ 手紙・DM 要:住所 ⑥ 電話 要:電話番号 ⑦ 問い合わせフォーム 要:フォームのURL 内側の3つは今日から打てる。外側は宛先の欄が埋まっている分だけ 緑=いま打てる/琥珀=宛先を揃えれば打てる。新規開拓が止まるのは、この7つが並んでいないから。
打ち手の棚卸し。外側の4つは「宛先」がそれぞれ違う。ホームページのURLがあってもフォームのURLが無ければ、⑦は今日は打てない

以前、自分たちの営業リスト2,032社(こちらはIT向けの名簿です)を「いま何が打てるか」で数え直したことがあります。手紙は2,031件出せるのに、電話は0件、フォームも0件でした。件数が2,000あっても、打てる手は1つだったのです(その話はこちら)。

新規開拓が進まない原因が、やる気でも文面でもなく、宛先の欄が空だったからということが、実際に起きます。

建設業は「名簿のある業界」です。ただし県によります

建設業には建設業許可の制度があり、許可を受けた会社の名簿が都道府県ごとに公開されています。ITのような業界には存在しない、業種で引ける公的な入口です。ところが、その公開のされ方が県によってまるで違います。2026年8月に関東の1都6県を一つずつ調べた結果です。

都県 一括で取れるか
神奈川 Excelで公開・毎月更新・電話番号あり
栃木 Excelで公開
東京 公開されているが、商用利用は許可しないと明記
茨城 PDFのみ・数年前のもの
埼玉・群馬 一括公開なし(窓口での閲覧)
千葉 一括公開なし(国の検索システムの案内のみ)

東京都の名簿のページには、この一覧やそれを加工したものを商用利用・出版・二次配布することは許可しない、という趣旨がはっきり書かれています。営業DMの宛先に使うのは商用利用にあたりますから、私たちは東京都の名簿を使いません。いちばん会社数の多い都なので惜しいのですが、ここは曲げないと決めました。利用条件を破って作ったリストは、後で全部使えなくなります。

国が運営している建設業者の検索システムも見に行きましたが、1ページ50件ずつの表示で一括の書き出しができず、名簿を作る用途には向きませんでした。

結論として、手紙を出せる範囲は、自分の営業エリアがどの県かで決まります。神奈川と栃木だけで、私たちの手元には1,459社の一覧ができました。自分の県がどちらなのかは、県の建設業担当課のページを開けば10分で分かります。

フォーム営業を、私たちは建設業では選びませんでした

正直に書いておきます。問い合わせフォームからの営業は、建設業向けには使わないことにしました。理由は2つで、そもそもフォームを置いていない会社が多いこと、置いてあっても宛先が事務の方で、外注先を決める人まで届きにくいことです。

ただしこれは、やってみた結果ではなく、私たちの見立てです。試していないことを「効かない」と書くのは違うので、そう書いておきます。

手紙を選ぶなら、1社ずつ書かないこと

外側で最初に打つ手として、私たちは手紙を選びました。ここで一度、設計を間違えかけました。

最初の案は「1社ずつ調べて、その会社に合わせた一行を入れる」でした。丁寧ではあります。しかし試算したら、200通で20〜30時間かかる。しかも増やせません。1,000通なら5倍です。

やめました。いま採っているのは、文面はセグメントに1本、差し込むのは会社名と代表者名の2項目だけという形です。こうすると、20通でも1,000通でも作業時間がほとんど変わりません。印刷や封入は外に出せますが、「1社ずつ書く」は外に出せない——時間を食っていたのはそちらのほうでした。

出せない完璧な手紙より、出せる普通の手紙のほうが強いという判断です。

どの手を打っても、次に効いてくるのは記録です

7つのうちどれを選んでも、1回で決まることはまずありません。決まるのは2回目・3回目です。紙で構いません。1社1行で、この3つだけあれば足ります。

  1. 会社名と、そこで知っている人の名前
  2. 最後に話した日
  3. 次に何をするか(1行でいい)

3つ目が空いている行は、放っておくと必ず止まります。

まとめ

  • 新規開拓は「内側」と「外側」に分ける。先に内側を数える
  • 内側は3つ。次の物件を聞く/同じ元請の別の人に会う/現場の他業者
  • 外側は4つ。紹介/手紙/電話/フォーム。それぞれ必要な宛先が違う
  • 建設業には公的な名簿がある。ただし使えるかどうかは県によって違う(東京都は商用利用不可)
  • どれを打っても、決まるのは2回目以降。最後に話した日を記録する

「1社に1人しかいない元請が5社ある」と分かっているだけで、来月やることは決まります。新規開拓が止まるのは、やる気ではなく、並べていないからです。


ここまでの内容は、紙とExcelだけで実行できます。道具は要りません。

私たちが作っているリレーションログは、この「最後に話した日」を機械が数えておく道具です。90日会っていない会社が自動で一覧に出ますし、元請の中の特定の人を「この人がキーマン」と決めておけば、会社との取引は動いているのにその人とは90日話せていないという状態でも知らせます(継続案件のある元請ほど、これが見えなくなります)。名簿をためておく置き場もあり、行ごとに手紙・電話・フォームのどれが打てるかが印で並びます。

関連:電気工事会社の営業リスト、無料でどこまで作れるか(県ごとの名簿の話)/元請の担当者が代わったとき2,032社の名簿で、打てる手は1つだけでした機能と料金

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