営業のしくみ

担当者が辞めるとき、営業の何を引き継げばいいか

引き継ぎ書を書かせても関係は残らない。残るのは日々の記録の副産物だけ

2026-08-24読了目安 5分

営業担当が辞めることになったとき、多くの会社で同じことが起きます。残りの出勤日で引き継ぎ書を書いてもらい、後任と一緒に主要な取引先へ挨拶回りをして、顧客リストを渡す。やるべきことは全部やった。それでも半年後、その担当が持っていた取引先の何社かは、静かに離れています。

なぜか。渡したのはリストで、消えたのは関係だからです。

(この記事は自社の担当が替わる側の話です。先方の担当が替わって声がかからなくなる話は元請の担当者が代わってから、声がかからなくなったに書きました。起きることは鏡写しですが、打ち手が違います。)

引き継ぎ書には、いちばん大事なことが書けない

退職が決まってから書く引き継ぎ書には、構造的な限界が3つあります。根性の問題ではありません。

まず、書く動機がありません。 辞める人にとって、引き継ぎ書の出来は自分の今後に関係がない。悪意がなくても、思い出せる範囲のことを綺麗にまとめて終わりになります。

次に、本人も自覚していないことは書けません。「あの会社は見積の返事が遅いが、催促すると嫌がられる。3週間は待つ」「窓口は課長だが、実際に決めるのは工事部長」。こういう肌感覚は、本人にとって当たり前すぎて、引き継ぎ事項だと認識されません。書かれるのは会社名と電話番号と「よろしくお願いします」で、いちばん高くついたはずの情報がいちばん抜けます。

そして、挨拶回りは関係の引き継ぎではありません。 顔合わせは入口にすぎず、先方から見れば「知らない人に代わった」という事実だけが残ります。付き合いは会社ではなく人に付いているので、人が替わった瞬間に関係はいったんゼロに近づく。そこから立て直せるかどうかは、後任が「これまで何があったか」をどれだけ知っているかで決まります。

引き継ぎ書に載るもの ・会社名と住所 ・電話番号 ・先方の担当者名 ・進行中の案件の一覧 =紙に書ける事実 本人の頭にしか無いもの ・実際に発注を決めるのは誰か ・催促してよい間合い(3週間は待つ) ・過去に何を無理して助けたか ・「来月また」の口約束 =当たり前すぎて、引き継ぎ事項だと思われない 高くついた情報ほど、書かれずに消える
引き継ぎ書に載るのは「紙に書ける事実」だけ。判断の材料は本人にとって当たり前すぎて、引き継ぎ事項だと認識されない

引き継ぎは「イベント」ではなく「日々の記録の副産物」

発想を変える必要があります。引き継ぎを、退職が決まってからやるイベントにしない。 日々の営業の記録がきちんと残っていれば、引き継ぎはその記録を後任に開くだけで済みます。逆に記録がなければ、どれだけ丁寧に引き継ぎ期間を取っても、頭の中までは移せません。

後任の初日に揃っていてほしいのは、この4つです。

誰と話してきたか——相手の名前と役割。窓口は誰で、実際に決めるのは誰か。 何があったか——訪問・電話・見積のやり取りの履歴。日付と中身。 いま何が動いているか——進行中の案件と、その状態。 次に何をする約束か——期日つきのやること。

この4つが揃っていれば、後任は「はじめまして」の挨拶に、「◯◯の件、引き続き私が進めます」を添えられます。先方から見て、関係が途切れていない。 引き継ぎで失うものの大半は、この一言が言えるかどうかで決まります。

道具が無くても、今日から始められること

いちばん軽い形はこれです。社外の相手と交わした「次はこうする」という約束と、その相手の役割(誰が決めるのか)だけは、担当者のノートではなく共有の場所に書く。

全部を記録しようとすると続きません。上の4つのうち、3つ目(いま何が動いているか)と4つ目(次の約束)は多くの会社が既に持っています——案件管理表や日報の形で。抜けているのはたいてい1つ目(誰が決めるのか)と2つ目(何があったか)です。そこだけ足すのが、いちばん費用対効果が高い。

リレーションログでは、引き継ぎ資料が「もうできている」

私たちが作っているリレーションログは、この4つを日々の記録として持つ道具です。接点の記録には誰が・いつ・何をしたかが残り、人には「案件を運ぶ人」「担ぎ先を決める人」といった役割を付けられます。担当の変更は一覧の「担当:◯◯」から1操作で、変更しても過去の記録はすべてそのまま残ります(接点は記録した本人の名前を持っているので、担当を替えても履歴が書き換わりません)。

後任にとっていちばん効くのは、AIによるあらすじです。会社・案件・人物ごとに、これまでの記録から「いまどういう状態か」の要約が毎朝つくられています。取引先を1社開けば、経緯が数行で頭に入る。引き継ぎ書を書いてもらう必要も、読み解く必要もありません。記録から機械が作った要約なので、辞める人の記憶にも善意にも依存しないのが肝です。

リレーションログの会社詳細に出るAIによるあらすじ。これまでの案件・接点の記録から、いまどういう状態かが数行の日本語で要約されている
実際の画面:記録から自動で作られる会社ごとのあらすじ。生成した時点を明記し、「事実は接点ログ・案件で確認してください」と断っている——要約は入口であって、証拠ではないからです

もうひとつ。引き継ぎの問題は先方側でも起きます。役割を付けた相手に「退職・異動」の印を付けると、その人が関わっていた会社で「誰を見失ったか」が挙がります。自社の担当交代も先方の担当交代も、同じ記録の仕組みで受け止めます。

宣伝はここまでにします。この記事の内容は、紙でもExcelでも実行できます。 大事なのは道具ではなく、記録が担当者個人ではなく会社に付いていることです。

「辞める人がいないから関係ない」うちに始める理由

この話には、ひとつ皮肉な性質があります。引き継ぎの仕組みは、辞める人が現れてからでは間に合いません。 記録は過去に遡って作れないからです。退職の申し出があった日から始められるのは「これから起きること」の記録だけで、失うのは「これまでの分」です。

営業が2〜3人の会社なら、なおさらです。1人辞めれば営業力の3分の1から半分が消える。その1人の頭の中にしか関係がない状態は、事業として細い橋の上にいます。社長自身についても同じことが言えます。

効果は、この問いで測ってください

「明日、営業担当が1人退職を申し出たとして、その人の取引先を後任が引き継ぐのに何日かかりますか」

記録が日々たまっていれば、答えは「初日から動ける」に近づきます。引き継ぎ書を書いてもらわないと始まらない状態なら、それはまだ、関係が個人の持ち物だということです。

そのつながりを、資産に変えよう。

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