IT受託の営業リスト、無料でどこまで作れるか
「名簿がない業界」で、担ぎ先候補2,000社を1日で組んだ手順
「新しい取引先を増やしたい。でも、どこに声をかければいいのか分からない」
受託開発・SES・運用保守——いわゆるIT下請けの会社で、これは一番よく聞く悩みです。仕事の大半は既存の付き合いと紹介で回っている。それは健全なことですが、既存の1社への依存度が上がりすぎたとき、新しい担ぎ先を探そうとして、はたと気づきます。この業界には、名簿がない。
建設業には「一発で引ける名簿」がある。ITには無い
以前、電気工事会社の営業リストの記事で書いたとおり、建設業には建設業許可のデータベースがあります。都道府県を選べば、許可業種つきで会社が一覧になる。県によって使い勝手や利用条件に差はあれど、入口が公的に一本ある業界です。
ITにはこれがありません。受託開発に許可制度はなく、「システム開発業の名簿」はどこにも存在しない。法人データベースの類で「情報通信業」を引くと、通信キャリアからゲーム会社、Web メディアまで混ざった何十万件が返ってきて、そこから受託の会社を選り分けるのは現実的ではありません。
ここで多くの会社が有料のリスト販売に向かうのですが、その前に試せることがあります。
発想を変える:「業種で引く」のではなく「行動で引く」
名簿がないなら、その業界の会社が共通してやっている行動の記録を探せばいい。IT の会社は、業種の名簿には載っていなくても、いろいろな公的リストに「行動の痕跡」を残しています。
いちばん筋が良かったのは、IT導入補助金の「IT導入支援事業者」採択一覧でした。中小企業がITツールを補助金で入れるとき、窓口になるベンダーとして登録された会社の一覧です。事務局が公開しているPDFに、法人番号・事業者名・都道府県が載っています。
この一覧が良い理由は2つあります。第一に、ここに載っている会社は「中小企業にITを売っている」ことが行動で証明されている。業種コードの自己申告よりずっと確かです。第二に、法人番号が付いている。これが後で効きます。
実際にやってみた:関東だけで2,032社
先日、自社の営業先リストを作るために、これを実際にやりました。かかったのは1日です。
2025年版と2026年版の採択一覧PDFをダウンロードし、プログラムで全行を抜き出します(手で転記してはいけません。数千行あります)。2025年版に3,676社、2026年版に2,923社。法人番号で名寄せすると、重複を除いて4,524社になりました。同名の会社の取り違えも、社名の表記ゆれも、法人番号で寄せれば起きません。
関東の1都6県に絞ると 2,032社。東京1,645、神奈川154、埼玉84、千葉80、群馬30、茨城24、栃木15。営業リストの骨格としては十分すぎる数です。
ついでに書くと、抜き出しが正しくできたかの検品にも法人番号が使えます。法人番号の1桁目は残り12桁から計算で求まる検査用数字なので、転記ミスがあれば計算が合いません。無作為に検算して全件一致すれば、写し間違いがないことを機械的に確かめられます。
肉付けと、その他の情報源
採択一覧には住所やWebサイトが載っていません。ここで法人番号が二度目の仕事をします。国が運営する法人情報サイト(gBizINFO)には、法人番号で引くと住所・Webサイト・従業員数などが返る仕組みがあり、法人番号を背骨に、骨格リストへ機械的に肉付けできるのです。
補助線になる情報源も挙げておきます。業界団体の会員名簿(情報サービス産業協会は法人会員458社の名簿を公開しています。各都県の情報産業協会にも同種の名簿があります)。ISMS認証の取得組織検索(8,600件超。認証の「登録範囲」の文言から「システム運用」「受託開発」といった業態が読めます)。SES であれば労働者派遣事業の許可事業所検索も入口になります。派遣許可を持つIT企業は、ほぼSES事業をやっています。
つまずいた点を正直に:利用条件は情報源ごとに違う
建設編でも書きましたが、公開されている名簿がそのまま営業に使えるとは限りません。今回も情報源ごとに利用条件を確認しました。採択一覧のような公表資料でも、PDFをそのまま転載・再配布するのは避け、事実(社名・法人番号・所在地)を自分のリストの材料にするにとどめる。gBizINFOのデータ利用には無料の申請が要り、申告した目的の範囲内で使う決まりです。認証機関の検索サイトには転載の規定がないものもあり、そういうものは宛先の下調べにとどめる。地味な話ですが、ここを飛ばすと後で名簿ごと使えなくなります。
リストは「作った後」のほうが難しい
ここまでで、費用ゼロ・1日で2,000社の骨格ができました。ただ、正直に言うと、リスト作りは新規開拓の仕事の2割です。残りの8割は、声をかけた相手の反応を記録し、脈のある相手を覚えておき、忘れた頃にもう一度声をかける——つまり付き合いの管理のほうにあります。せっかく作ったリストがExcelのまま放置され、どこまで送ったか分からなくなる。建設業の協力会社一覧が壊れるのと同じ壊れ方を、営業リストもします。
リレーションログには、この「作った後」のための営業リスト機能があります。Excel をそのまま取り込むと、既存の取引先と自動で突き合わせて重複を弾き、送付や架電の記録を付けられて、反応があった相手だけをお客様の一覧に引き上げる仕組みです。名簿づくりの熱量が冷めないうちに、運用の器まで用意しておく——それが、リストを資産に変える分かれ目だと思います。
まとめ:名簿がない業界の、リストの作り方
業種で引かず、行動の記録で引く。法人番号を背骨にして名寄せと肉付けをする。利用条件は情報源ごとに確かめる。この3つで、名簿のない業界でも営業リストは無料で組めます。建設業のような一発の名簿はなくても、やりようはあります。
そのつながりを、資産に変えよう。
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